古典文学の冒頭文は、就職試験の一般常識の問題で問われることがあります。
このページでは、古文の有名作品の書き出しをまとめました。
なお、出題頻度を★★★☆☆で示しました。★が多いほど、出題されやすい。
『土佐日記』の冒頭文
男もすなる日記(にき)というものを、女もしてみんとてすなり。
それの年の十二月(しはす)の二十日あまり一日の日の戌(いぬ)の時に、門出す。
- 成立・・・935年ごろ
- 作者・・・紀 貫之(きの つらゆき)
- ジャンル・・・日記
- 概要・・・平安中期の日記文学。紀 貫之が934年2月に土佐を出発して、935年に都に帰るまでの55日間をつづったもの。書き手を女性に仮託して(=さも女性が書いたような書きっぷりで)、仮名書きで記しています。
出題頻度:★★★★☆
『伊勢物語』の冒頭文
むかし、をとこ、初冠(うひかうぶり)して、平城(なら)の京、春日(かすが)の里にしるよしして、狩にいにけり。
- 成立・・・平安前期
- 作者・・・不明
- ジャンル・・・歌物語
- 概要・・・在原業平(ありわらのなりひら)と思われる男を主人公として、歌を中心とした短い恋愛物語を生涯の記録のようにつづっています。多くの和歌が、「むかし、男ありけり」という冒頭句で始まります。
出題頻度:★★★★☆
『枕草子』の冒頭文
春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこし明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。
- 成立・・・平安中期
- 作者・・・清少納言
- ジャンル・・・随筆
- 概要・・・中宮定子に仕えていた、清少納言による随筆。紫式部の書いた『源氏物語』が“あはれの文学”といわれるのに対し、『枕草子』は“をかしの文学”と呼ばれます。当時の女性にはめずらしく、「これは美しい」「こんなことは嫌だ」などと、はっきり自分の意見を述べているのが特徴です。
冒頭の「春はあけぼの・・・」は、
春はあけぼの、つまり日の出前の空がいちばん美しい、という意味。『枕草子』の中で、清少納言は夏・秋・冬についても、一番すばらしいと感じる瞬間について、持論を述べています。
夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、はたるの多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし・・・
秋は夕暮れ。夕日の差して山の端(は)いと近うなりたるに、からすの寝所へ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛びいそぐさへあはれなり・・・
冬はつとめて。雪の降りたるは、言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、また、さらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭もて渡るも、いとつきづきし・・・
※「つとめて」は漢字で書くと、「夙めて」。早朝のこと。
出題頻度:★★★★★
『源氏物語』の冒頭文
いづれの御時(おんとき)にか、女御(にょうご)、更衣(かうい)あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなき際(きは)にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。
- 成立・・・1008年ごろ(平安中期)
- 作者・・・紫式部
- ジャンル・・・物語
- 概要・・・光源氏を主人公として、貴族の栄光と没落、恋愛、権力闘争などを70~80年の時間の流れとともに描いた大河小説。五十四帖から成り、大きく三部にわかれます。
出題頻度:★★★☆☆
『更級(さらしな)日記』の冒頭文
あづまぢの道のはてよりもなほ奥つ方に生ひ出でたる人、いかばかりかはあやしかりけむを、いかに思ひはじめける事にか、世の中に物語といふ物のあんなるを、いかで見ばやと思ひつつ、つれづれなる昼間、宵居(よひゐ)などに、姉・まま母などやうの人々の、その物語・かの物語・光源氏のあるやうなど、ところどころ語るを聞くに、いとどゆかしさまされど、わが思ふままに、そらいかでかおぼえ語らむ。
- 成立・・・1059年ごろ(平安中期)
- 作者・・・菅原孝標女(すがわらの たかすえの むすめ)
- ジャンル・・・日記、回想録
- 概要・・・菅原孝標の次女・菅原孝標女が、夫の死を悲しんで書いたといわれる回想録。作者が13歳のころから52歳のころまでの約40年間におよぶ半生がつづられています。『源氏物語』の夕顔や浮舟みたいな恋愛観に憧れた少女時代、次々と身内と死別していった厳しい現実も描かれています。
出題頻度:★★★☆☆
『方丈記』の冒頭文
ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとどまりたる例(ためし)なし。
- 成立・・・1212年(鎌倉初期)
- 作者・・・鴨長明(かもの ちょうめい)
- ジャンル・・・随筆
- 概要・・・作者の鴨長明が、晩年になって日野山に、一丈四方(=たたみ四畳半)の広さの庵(いおり)に住んだことが書名の由来。庵に住みながら地震・火事などの天変地異、世俗をはなれた暮らしぶりを書き記しました。日本人の“無常観”をあらわした作品として知られています。
出題頻度:★★☆☆☆
『平家物語』の冒頭文
祇園精舎(ぎおんしやうじゃ)の鐘の声(こゑ)、諸行無常のひびきあり。沙羅双樹(しゃらさうじゅ)の花の色、盛者必衰(じやうしゃひっすい)の理(ことはり)をあらはす。おごれる人も久しからず。ただ春の夜の夢のごとし。
- 成立・・・鎌倉初期
- 作者・・・不明
- ジャンル・・・軍記物語
- 概要・・・平清盛(たいらの きよもり)を中心とする平家の栄光と没落を描いた、歴史物語。もともとは、琵琶(びわ)という楽器の演奏とともに語られました。琵琶を弾くことを職業とした目の見えない僧侶のことを、“琵琶法師”と呼びます。
出題頻度:★★★★☆
『おくのほそ道』の冒頭文
月日は百代(はくたい)の過客(くわかく)にして、行きかふ年もまた旅人なり。船の上に生涯を浮かべ、馬の口とらへて老いを迎ふる者は、日々旅にして旅を栖(すみか)とす。古人も多く旅に死せるあり。
- 成立・・・1702年(江戸前期)
- 作者・・・松尾芭蕉
- ジャンル・・・俳諧(はいかい)、紀行文
- 概要・・・作者の松尾芭蕉は、平安後期の歌人・西行(さいぎょう)に憧れていました。芭蕉は、西行の500回忌にあたる1689年(元禄2年)に、門人の河合曾良(かわい そら)と江戸の深川を出発。奥州や北陸の名所をたずねながら、各地で詠んだ俳句とその地域の感想をつづった紀行文です。
出題頻度:★★☆☆☆